惑星と惑星のあいだで ディスカバリー号
ディスカバリー号球を離れて30日デイビット・ボーマンはディスカバリー号の2つの閉ざされた小世界以外の場所に住んでいたとは信じられなくなることがたまにあった。今回の計画まで訓練に費やされた年月、月や火星への飛行、それらが他人の人生の中のでき事のように思えるのだった。それは5年前の『木星計画』の名のものにはじまった太陽系最大の惑星への有人宇宙船による最初の往復飛行計画が変更されたのだ。木星に向かうには向かうのだが通り過ごす、速度をゆるめもしないどころか巨大惑星の重力を利用してさらに加速し土星に向かってまっしぐらに飛ぶ、そして二度と戻ってこない片旅行である。だが乗組員は自殺を意図しているわけではない、人口冬眠の夢のない眠りのなかでディスカバリー2号が助けにやってくるのを待つのだ、万事順調に運べば7年後に地球に戻ってくる。ディスカバリー号は最終目的地の土星めぐるパーキング軌道に入り巨大惑星の新しい月となる。彼らは少なくとも100日にわたって観測し研究するのだ、そして100日の終わりにディスカバリー号は活動を停止する、全員が人口冬眠に入り必要不可欠な装置だけが人口頭脳に見守られて活動を続ける。船はそのまま土星の周囲をまわる。正確に決定された起動なので一千年後でも船を探し出すことはたやすのだ。

ハル:目ハ ル
船の6番めの乗組員は人間ではなかった高度に進歩したHAL9000型コンピューターがそれであった、HALといっても発見能力をプログラムされた(アルゴリズミック・コンピューター)第3次コンピューター革命の生み出した傑作であっる。1980年代に入って任意の学習プログラムに従って神経回路を自動的に発生させる---自己複製させる人工頭脳を人間の頭脳の発達に酷似したプロセスで成長させることが可能になったのである。それは人間の理解を100万倍も越し人脳よりはるかに優れた能力を持つことが出来た。

船内生活
ボーマンディスカバリー号全長は400フィート近くあるが乗組員の為にしつらえられた小宇宙は、直径40フィートの機密部分だけ。そこにすべての生命維持装置と、船の機能的心臓部であるコントロールデッキがあるのだ。機密球体で赤道部分は、直径35フィートゆっくりと回転する鼓輪を内包している。このメリーゴーランド、つまり遠心分離機は、10秒に一回の割合で回転し、月面のそれに等しい人口重力を作り出す。そのメリーゴーランドのなかには、キッチン、食事、洗濯、トイットの施設すべてが備えられていた。  


小惑星を帯を抜けて
この先は、人間の存在を許さない世界、100万個以上の小惑星の軌道が網の目のように交差する空域なのだ。どんな小さな岩塊であっても宇宙船は木っ端微塵になる。だがそれは現実に起こる可能性は取るの足らないものものだった一片100万マイルに1個の小惑星があるにすぎないのだ。第86日は、彼らが既知の小惑星にたった一度、最も接近する日だった。直径50ヤードの岩塊で19997年月面天文台がその存在を感知していた。ハルがつかさず出会いが近づいたことを報告した、ポーマンはハルに望遠ディスプレイの切り替えを命じた。小惑星らしいものはどこにも見当たらず、倍率を最高にあげても、大きさのない光の点があるだけだった。6時間後には先刻の数百倍も明るくなっていた、もはやそれは光の点ではなくなり、ハッキリとした円盤の形を見せはじめていた。2人は、長い航海の途中にある船員が、立ち寄ることもなくかすめた陸地をいとおしむような気持ちで、通り過ぎる空の小石を眺めた。


木星面通過
望遠鏡で見る木星は素晴らしい景観である、まだらの極彩色の球はほとんどの空をおおいつくす、その真の大きさを把握するのは不可能だ。あるときボードマンがハルの記憶装置に備えられているテープで勉強しているときだった惑星の驚くべき大きさを思い知る出来事が起こった。地球の全面積をはがし、獣皮のように惑星に貼り付けたイラストレーションを見つけたのだ、地球儀上の大陸と海すべてを合わせてもインドほどの大きさもないのである。時速1万マイルの現在のスピードでもディスカバリー号が木星の全衛星の軌道を横切るのには2週間あまりもかかるのだ。木星は小惑星から一時的に月を捕らえては数百万年後に手放し、それを絶えず繰り返している、最後に勝を占めるのは常に太陽である。今その圧倒的な重力場の中に新しい獲物が入り込んできた、ディスカバリー号は木星の重力場からはねかえりその衝撃でさらに運動量を得ていた燃料を消費することなく、速度を数千マイルにあげたのだ、といって力学の法則をおかした訳ではない、ディスカバリー号が得た運動量を木星が失ったのだ。
木星
NEXT=深淵